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東京高等裁判所 昭和29年(ネ)2426号 判決

控訴人 青木静 外三名

被控訴人 長島壮行

事実

控訴人等代理人は、「原判決を取り消す。昭和二十八年九月三十日の東京都世田谷区議会において行われた間接選挙に基く、被控訴人長島壮行の東京都世田谷特別区長の選任は無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上並に法律上の主張は、控訴人等代理人において次のように補充釈明した外、原判決事実に記載されたところと同一であるから、これを引用する。

控訴人等の当審における補述。

日本国憲法は、地方公共団体の選挙につき住民の直接選挙によるべきことを明定している。このことは、住民の個個人がそれぞれ自己の自由意思によつて、自己の欲する具体的な長を選出するための機会と方法とを保障するものであつて、この具体的な長を選出する権利は、全く住民個々人に与えられた具体的な権利というべきである。控訴人等はこの意味における具体的にして一身専属の権利たる選挙権を有する。被控訴人が憲法によつて長の選出権を与えられたものでない区議会によつて、世田谷特別区長に選出され現に就任していることは、取りも直さず控訴人等の有する選挙権(一般的抽象的用語上の)が無視され、その行使が現実に阻止され、これが結果として控訴人等各自が欲するところの具体的な長を投票により選出することを内容とする具体的な権利が侵害されたのである。本訴は以上の如き具体的権利の侵害に対する救済を求めんとするものであつて、控訴人等は右権利侵害なる土台の上に築かれている被控訴人の身分について、その特別区長たることを否認する公法上の身分関係確認を訴求する次第である。

理由

当裁判所は更に審究の結果、原審と同一見解の下に、本件は結局国民個人の具体的な法律関係についての紛争に関するものでなく、またこのような事案につき成法上出訴を認めた規定もないので、本訴はこれを不適法として却下する外なきものと判定した。よつて原判決の理由を全部引用する。

控訴人等はまた、被控訴人の区議会による世田谷特別区長選任は、控訴人等が憲法上附与されている選挙権の侵害であり、それは住民各自がそれぞれの自由意思に基き自己の欲する具体的な長を投票により選出することを内容とする具体的にして一身専属の権利を侵害するものに外ならないから、本訴はこの具体的権利の侵害に対する救済を求める公法上の身分関係確認の訴として適法である。と主張するけれども、所論は到底採用の限りでない。即ち控訴人等が侵害されたと主張する具体的な特別区長選出の権利とは、ひつ竟一般国民又は区の住民の一人たる資格において、控訴人等に属するとする特別区長の選挙権であり、被控訴人が区の往民の直接選挙によらずして、世田谷区議会によつて選任されたのが違法であると論じ、その無効を主張するのは、結局特別区長選任手続の適否を争うことに帰着する。控訴人等と被控訴人との間には、元来その権利義務に関し、格別具体的な利害の対立又は紛争があるのではない。それ故本訴は、個人の権利の保護救済を求めるのをその本旨とするのではなくて、全く控訴人等が国民又は区の住民たる資格において、公共的立場より、特別区長選任に関する行政法規の違法な適用を是正することを目的とするいわゆる民衆訴訟の一種に属するものと解するを相当とすべく、しかるにこの種訴訟については、現行法制上特別の法律の規定なくして出訴することは許されないのである。

然らば同一趣旨により本訴を不適法として却下した原判決は相当であつて、控訴は理由なきが故に棄却すべきものとし、民事訴訟法第八十九条第九十五条に則り、主文のとおり判決する。

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